僕は飛び跳ねている時、気持ちは空に向かっています。
空に吸い込まれてしまいたい思いが、僕の心を揺さぶるのです。
こんにちは! kotoです。 プロフィール
今回は書籍のご紹介です。
東田直樹さんをご存じですか?
作家・詩人・絵本作家であり、重度の自閉症者です。
1992年生まれで、今年30歳。
13歳の時に書かれた『自閉症の僕が跳びはねる理由』は、30ヵ国以上で翻訳され、世界的ベストセラーになっています。
「大きな声はなぜ出るのですか?」
「表情が乏しいのはどうしてですか?」
「なぜくり返し同じことをやるのですか?」
自閉症に対する58個の疑問に対して、著者の思いが真摯に、時にはユーモラスに語られています。
純粋な言葉で綴られたショートストーリーからは、美しい音楽が聴こえてきそうです。
人と会話ができず、コミュニケーションが困難だった著者ですが、アルファベットを一文字一文字指しながら、自分の思いを伝える「文字盤ポインティング」を時間をかけて習得。
自分の思いを初めて伝えられた時の喜びとは、どれほどのものだったでしょう。
これまでの自閉症者に対する思い込みを、みごとに覆した作品です。
この本を元にして2020年にはイギリスで映画化。日本では昨年公開されました。
今まで知りえなかった「自閉の世界」が、書籍からは言葉で、映画からは映像になって心に突き刺さってきます。
この本を手に取った理由
数年前のこと。
3カ月の間、お母さんがお出かけする時間だけ、自閉症のお子さんを預かっていました。
5歳のミーくんは会話はできませんが、人懐っこくて活発な男の子。
家中を動き回るミーくんに、ケガをさせてはいけないと後ろを付いて回る私。
「すぐどこかに行ってしまうのはなぜですか?」
行きたくて動いているのではないのです。そうすれば、気持ちがいい訳でもありません。まるで、タイムスリップしたみたいに、いつの間にか身体が動いてしまうのです。
一緒に遊びたくて話しかけるのですが、一切私の方を見てくれないし、声が届いているように思えません。
「どうして目を見て話さないのですか?」
僕らが見ているものは、人の声なのです。声は見えるものではありませんが、僕らは全ての感覚器官を使って話を聞こうとするのです。
「声をかけられても無視するのはなぜですか?」
僕が悲しいのは、すぐ側にいる人が、僕に声をかけてくれた時も気がつかないことです。(中略)声をかける前に名前を呼んでもらって、僕が気づいてから話しかけてもらえると助かります。
当時は対応に困る場面もありました。
疑問に思っていたことの答えを知り、嬉しかったり反省したり…。
あの時にこの本を読んでいたら、彼とのコミュニケーションの方法が、もっと違うものになっていたでしょう。
今は遠くの街で暮らすミーくん。元気にやっているかな。
自閉の世界の生きづらさ
著者は自分のことを「不良品のロボットを運転しているようなものだ」と例えています。
身体さえ思い通りにならず、じっとしていることも、言われた通り動くこともできない。
思いは皆と同じなのに、それを伝える方法が見つからないんだと。
「会話」ができないということは、
嬉しくても感謝を伝えられない。
怒っている相手に謝れない。
誤解されても解くことはできない。
不快なことから逃げられない。
そんなつらい気持ちですら、
聞いてもらうことができない。
想像するだけで苦しくなります。
「会話」ができることの重み
巻末の短編小説「側にいるから」は、ピュアで切ないストーリー。
不慮の事故で亡くなってしまった主人公は、悲しみのあまり弱っていく両親を目の当たりにしながら、何もしてあげられないもどかしさに思い悩みます。
自分の愛する人に気持ちを伝えられないことがどういうことなのかが、よりリアルに伝わってくる作品です。
当たり前にできている「会話」というものが、人とのコミュニケーションにおいて、どれほど大切なものかを再認識させられました。
自閉の世界へのパスポート
この本の魅力は、自閉症者に対する理解が深まることも一つですが、著者である東田直樹さんの、誠実で愛情あふれる人柄に触れられることがとても大きいです。
続編の『自閉症の僕が跳びはねる理由2』は、東田さんが高校生の時の作品。
62個のQ&Aと、素敵な7つの詩で構成されています。
どの詩も躍動感と生命力にあふれていて、私は大好きです。
東田さんの瞳と心に映る、世界の美しさを垣間見ることができますよ!
私たちにできることは、知ることと想像力を働かせること。
この本を片手に、自閉の世界を旅してみませんか?